課題を解決

VMware vSAN 8 で何が変わる?
〜新機能と強化のポイントについてエキスパート対談で解説~

2023/01/31

コンテンツ提供:株式会社ネットワールド

HCI(ハイパーコンバージドインフラストラクチャ)を支えるストレージ基盤の最新バージョンであるVMware vSAN 8がリリースされました。過去最大とも言えるアップデートが行われたVMware vSAN 8は、従来と比べどのような点が進化したのでしょうか。本記事では、株式会社ネットワールド 工藤 真臣 氏とヴイエムウェア株式会社 川満 雄樹のエキスパート対談を通して、新しいVMware vSANの特徴をご紹介します。

工藤 真臣 氏 株式会社ネットワールド ソリューションアーキテクト
工藤 真臣 氏
株式会社ネットワールド
ソリューションアーキテクト
川満 雄樹 ヴイエムウェア株式会社クラウドプラットフォーム技術統括部 シニアクラウドプラットフォームアーキテクト
川満 雄樹
ヴイエムウェア株式会社
クラウドプラットフォーム技術統括部
シニアクラウドプラットフォームアーキテクト

目次


VMware vSAN 8の概要

VMware vSAN 8は、ストレージデバイスの進化に対応し、飛躍的なパフォーマンスと効率性を実現する次世代のストレージプラットフォームです。具体的には、新規開発されたvSAN Express Storage Architecture(以下、vSAN ESA)が選択肢として加わることで、最新ストレージデバイスの性能を最大限に引き出す、新たな構成が可能となります。また、データ圧縮の更なる効率化、シンプルなストレージ構成によるTCOの削減と耐障害性の向上、スナップショットの改善など、さまざまな新機能が盛り込まれています。

それでは、具体的にはどのような点が変化したのでしょうか。ここからは、工藤氏と川満の対談を通して、VMware vSAN 8のアーキテクチャやハードウェア要件について探ります。

次世代ストレージに対応した新しいアーキテクチャ vSAN ESA

工藤 VMware vSAN 8の発表で、多くの人がvSAN ESAに注目しているのではないかと思います。大幅なパフォーマンスの向上などが謳われていますが、簡単にその特徴を教えてください。

川満 既存のアーキテクチャは、vSAN Original Storage Architecture(以下、vSAN OSA)と呼ばれています。vSAN OSAでは、高速・高耐久のキャッシュドライブと、大容量・安価なキャパシティドライブの2種類のデバイスをディスクグループとして組み合わせることで、パフォーマンスとコストを両立した大容量ストレージを実現しています。一方新しいvSAN ESAでは、より高い性能を安定的に出すために、キャッシュ・キャパシティでストレージを分けるのではなく、全て高速なNVMeドライブで構成された単一構成のアーキテクチャを採用しています。

工藤 vSAN ESAではディスクグループがなくなるということですね。ということは、性能面だけでなく、耐障害性も向上するのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

川満 そうですね。SPoF(Single Point of Failure、単一障害点)を排除できるので、例えばあるキャッシュドライブに障害が起こった時に、同じディスクグループに属する複数のキャパシティドライブが巻き込まれて使えなくなる状況を防ぐことができます。またキャッシュドライブとキャパシティドライブの区別がなくなるので、容量面でのコストパフォーマンスも向上します。このようにvSAN ESAでは、これまでよりストレージ全体をバランス良く使えるようになります。

工藤 一方でNVMeドライブが前提だとすると、その他のハードウェアにもいろいろな変化がありそうです。vSAN ESAでは、どのようなハードウェア要件を設けているのでしょうか。

川満 vSAN ESAのストレージは、必ずvSAN ESA 用に互換性が認定されたNVMeドライブで構成しなければなりません。vSAN OSAでサポートされているSAS(Serial Attached SCSI)やSATAドライブはサポートしていません。またストレージの高速性に伴う高いI/O要求に応えるために、ネットワークにも高い性能が要求されます。具体的には、vSANクラスタ間のネットワークを25Gbpsで構成する必要があります。vSAN ESAの初期リリースでは従来のようなBYO(Bring Your Own)で用意したサーバのカスタム構成には対応していないので、基本的にはすべてvSAN ESA ReadyNode認定を受けたサーバで構成し、ESA ReadyNode をベースに必要に応じたカスタムをすることになります。

工藤 vSAN ESAでは、まったく新しいハードウェア構成が必要になるということですね。一方、従来の仕組みであるvSAN OSAはこれからどうなるのでしょうか。

川満 vSAN ESAは、従来のvSAN OSAを置き換えるものではなく、あくまでもより高い性能を求めるお客様に対して選択肢を提供するものです。一方vSAN OSAの強みは、幅広いデバイスをサポートしていることで、サーバ構成ガイドに沿った様々なハードウェア構成に対応できることです。vSAN OSAは今後も提供され、ストレージの大容量化や高速化に対応したアップデートを続けていきます。

工藤 vSAN ESAは選択肢の1つであってvSAN OSAの後継ではないということですね。

vSAN OSAは決してなくなるわけではなく、今後も続いていくと聞いて安心しました。一方で、VMware vSAN 8では、vSAN OSAもアップデートされたと聞きましたが、従来からのvSANユーザーにとっての変更点は何でしょうか。

川満 従来は、オールフラッシュvSANにおけるキャッシュドライブで利用できるアクティブなキャッシュ領域はドライブ辺り600GBに制限され、残りは耐障害性や可用性を高めるための領域として利用されていました。今回のアップデートで、キャッシュ容量が1.6TBまで拡張されました。大容量のSSDを書き込みバッファとしてフル活用できるので、より高い性能と安定性を実現する事ができます。

工藤 vSAN ESAの導入検討にあたって、最初はvSAN OSAで構成して、後からvSAN ESAに切り替えたいというお客様もいると思います。vSAN OSAのストレージをvSAN ESAへ移行することは可能なのでしょうか。

川満 VMware Storage vMotionで、新規vSAN ESAクラスタに既存の仮想マシンを移動することが可能です。ただvSAN ESAとvSAN OSAでは、ハードウェアの構成が全く異なるので、既存のvSAN OSAで構成されたvSANクラスタを、vSAN ESAにアップグレードすることはできません。

工藤 なるほど。従来のvSANファイルディスクフォーマットのバージョンアップのようにはいかず、異なるストレージという扱いで移行する必要があるということですね。

株式会社ネットワールド 工藤 真臣 氏、ヴイエムウェア株式会社 川満 雄樹

vSAN ESAによるパフォーマンスと効率性向上の仕組みとは?

工藤 それでは、vSAN ESAのアーキテクチャの中でいくつか気になるポイントについてお聞かせください。にわかに信じ難いのが、RAID5/6なのにRAID1と同じパフォーマンスが出るという点なのですが、どのような仕組みで動いているのでしょうか。

川満 高速化の秘訣は、vSAN ESAの書き込み方法にあります。vSAN ESAの場合は1つのNVMeドライブごとにPerformance-Leg(キャッシュ用途)とCapacity-Leg(キャパシティ用途)と呼ぶ2つの領域を持っています。仮想マシンから書き込みがあると、一旦Performance-LegにRAID1でデータを書き込み、ACK(書き込み完了通知)を返します。Performance-Legにある程度データが溜まったら、それを順次Capacity LegにRAID5/6でフルストライプ書き込みを行います。フルストライプ書き込みでは、書き込みI/Oが発生するたびにパリティ計算を毎回行うのではなく、ある程度データをまとめてからパリティ計算をRAIDのストライプ幅で一度に行いまとめて書き込みます。これにより、通常のRAID5/6 のようなイレイジャーコーディング利用時の書き込みパリティ計算に伴うI/Oオーバーヘッドを大幅に削減する事ができるのです。

工藤 ストレージポリシーに沿ってフルストライプ書き込みを行うのは、Capacity-Legに書き込むタイミングということですね。つまり、ストレージポリシーの設定に関わらず性能を担保できる訳ですね。RAID5/6でもRAID1と同じパフォーマンスを出せる理由が良くわかりました。可用性についてはいかがでしょうか。

川満 Performance-LegとCapacity-LegでRAIDの構成が異なっていても、可用性・冗長性が落ちるわけではありません。例えば、FFT1であれば2台のサーバのPerformance Legにデータが書き込まれます。FFT2であれば、3台に分散書き込みされます。

工藤 キャッシュであっても、ステージング時と同じSLAを担保できるようにミラーリングしているということですね。また、圧縮がデフォルトで有効になっているとのことですが、それでも性能が落ちない仕組みになっているのでしょうか。

川満 従来のディスクグループ方式の時には、暗号化や圧縮処理を、ストレージを管理しているそれぞれのESXiホストで行っていました。vSAN ESAでは、仮想マシンが動いているESXiホストで一度だけ圧縮・暗号化の処理を行い、圧縮・暗号化済みのデータを各ESXiホストに転送します。その結果、データの通信量や保存量を大幅に削減し、CPU負荷を下げることに成功しました。

工藤 圧縮効率も向上したと聞きましたが、従来に比べると容量が小さくなることもありえますか?

川満 はい。従来は4KBのデータブロックあたり2KBのセクターごとに圧縮可否を判定していましたが、vSAN ESAではより細かな512バイトのセクターごとに圧縮可否を判定するので、より効率よく圧縮できるようになりました。

工藤 もう一点気になっているのですが、今回のバージョンアップで、スナップショットを完全に作り直したと聞きました。多くのユーザーが、バージョンアップのたびにスナップショットの改善を期待していると思うのですが、今回はどのような点が変わったのでしょうか。

川満 従来のVMFSやvSAN OSAでは、スナップショットの差分管理にチェーン方式のデータ構造を採用していましたが、今回のバージョンアップでvSAN ESAのスナップショットはB-ツリーを利用したポインタベースのルックアップアーキテクチャに置き換えました。従来はスナップショットのチェーンが増えていくと、性能の劣化や、スナップショットの削除に時間が掛かるという問題がありました。従来のvSANでも改善を続けてきましたが、今回アーキテクチャを一新したことで、I/O重複の削減や瞬間停止時間の極小化、CPUとネットワーク効率の向上に成功しました。

工藤 ありがとうございます。その他に性能面で向上した点はありますか?

川満 ホスト障害などによりデータを復元する際、従来はリビルド処理に伴うI/Oが各ドライブインターフェイスでボトルネックになる事がありました。一方vSAN ESAはオールNVMeなので、元々I/Oの帯域が非常に広いこと、さらにインテリジェントなトラフィック制御が備わっているので、復元作業が必要な場合も、パフォーマンスの悪化を起こすことなくリビルドができると言うメリットがあります。

工藤 従来もAdaptive Resyncという機能がありましたが、さらに拡張されたと言うことでしょうか。

川満 正確にはvSAN OSA でのAdaptive Resyncとは異なりますが、vSAN ESAでも同様の制御機構でより多くの並列のI/Oを捌ける仕組みに強化されています。

従来の運用方法そのままで高性能を活かせる

工藤 これだけ大きな変化があると、運用周りにも大きな影響が出そうですが、従来から変更になる点はありますか?

川満 ユーザーインターフェースの面では、変更はありません。vSAN ESAも従来と同じ方法でvSphere ClientのUIやPowerCLI、APIから管理することができます。内部アーキテクチャは異なりますが、仮想マシンやストレージの運用という観点では全く同じ方法を踏襲しているので、従来の運用方法をそのまま生かすことができます。

工藤 なるほど。運用手順の変更や再学習のコストが不要であることは、大きな強みですね。一方、vSAN ESAで新たにできること、できなくなったことはありますか。例えば、ディスクグループがなくなったことで、クラスタ全体で重複排除できるようになると嬉しいのですが。

川満 重複排除に関しては残念ながら、vSAN ESAの初期リリースには実装されていません。vSAN ESAには今のところ暗号化と圧縮のみが実装されています。ただ、開発チームのブログを読むと、現在のリリースでは非採用という注釈がついていることが多いです。具体的な時期はまだお約束できませんが、重複排除の実装についても、今後何らかの進展があるかもしれません。

工藤 今後のアップデートに期待が高まりますね。ただ現状では重複排除がサポートされていないとなると、容量の試算など、vSAN OSAでの見積をそのままvSAN ESAに流用することができません。サイジングツールの対応は進んでいるのでしょうか。

川満 vSAN ReadyNode Sizerについては、2022年12月にvSAN ESA対応のUIがリリースされました。Quick Sizer 機能も強化されvSANのサイジングやメモリオーバーヘッドなどを気軽に見積もることができます。また期待する圧縮率に応じて、vSAN OSA/ESAの比較などもできるようになっています。ぜひ皆様もご利用ください。

工藤 先日の川満さんのブログでも、サイジングについて詳細な解説をされているので、そちらも併せてご覧いただくと良いかもしれませんね。繰り返しになりますが、VMware vSAN 8では、性能を求めるお客様のための新たな選択肢であるvSAN ESAと、幅広いハードウェア構成に対応したvSAN OSAが今後も併存し続け、それぞれハードウェアの進化に対応してアップデートが続いていくという点を確認できてよかったです。選択肢が広がったことで、今後もVMware vSANは、ストレージ基盤の要として、多くのお客様のニーズに応え続けていくと思います。本日はありがとうございました。


VMware vSAN 8 についてさらに詳しく

VMware vSAN 8 については、VMware Cloud Frontier by Networld でも詳しく紹介しています。

【ノウハウ活用ガイド vSphere+ / vSAN+】
5分でわかる!VMware vSANとは?〜概要から vSAN ESA、vSAN+ について〜

本記事では、ストレージ仮想化市場におけるリーダー製品として評価の高い「VMware vSAN」の概要と、2022年のVMware Exploreで大幅アップデートが発表された「vSAN 8・vSAN ESA」情報、そして「VMware vSphere+」環境にて利用可能な「VMware vSAN+」についてご紹介します。

この記事を読む

※株式会社ネットワールドが運営する VMware Cloud Frontier by Networld に移動します

おすすめ資料ダウンロード

最新の「課題を解決」

人気の記事

TOP