コンテンツ提供:株式会社ネットワールド
アプリケーション変革やセキュリティ脅威の増大、AIなど新しい分野の発展により、ますます高度な処理がサーバに要求され、CPUリソースが逼迫し続けています。そんな中、VMware vSphere 8でリリースされたvSphere Distributed Services Engineは、インフラ関連のCPU処理を負荷分散(オフロード)する革新的な技術として注目を集めています。そこで本記事では、株式会社ネットワールドの工藤 真臣 氏と日本ヒューレット・パッカード合同会社(以下HPE)の小川 大地 氏の対談を通して、vSphere Distributed Services Engineと、その前提となるDPU・Smart NICについて解説します。
工藤 真臣 氏
株式会社ネットワールド
ソリューションアーキテクト課
部長代理
小川 大地 氏
日本ヒューレット・パッカード合同会社
プリセールスエンジニアリング統括本部
コンピュート技術部 部長
目次
- 前提知識:Smart NICとDPUとは?
- vSphere Distributed Services Engineとは
- vSphere Distributed Services Engineの使い勝手と制限
- HPE製品の強みはSmart NICベンダーとの密接な連携
- Smart NIC普及に向けた展望
- vSphere Distributed Services Engine についてさらに詳しく
前提知識:Smart NICとDPUとは?
工藤 今日は、VMware vSphereとSmart NICのエキスパートである、HPEの小川大地さんに、vSphere Distributed Services Engineについて詳しくお話を伺いたいと思います。VMware vSphere 8で、vSphere Distributed Services EngineによるDPU(Data Processing Unit)へのオフロード機能がサポートされましたが、まずは前提となるSmart NICとDPUについてよく同じ物のように捉えがちですが違いについて教えてください。
小川 Smart NICはNIC(Network Interface Card)に、DPUと呼ばれる汎用的なプロセッサを搭載した製品です。DPUには性能進化の著しいスマートフォンで利用されるARMプロセッサが利用されています。また、一般的なコンピュータのようにメモリ、ストレージも搭載されており、通常のネットワーク処理を高速化するだけでなく、様々なアプリケーションを実行することができます。その結果、より様々なCPU処理をオフロードしたり、後から機能拡張することが可能になります。
株式会社ネットワールド 工藤 真臣 氏、日本ヒューレット・パッカード合同会社 小川 大地 氏
工藤 NICに、Raspberry Piのような小型のARMサーバが乗っているイメージですね。従来のNICにも、一部のCPU処理をオフロードする機能が搭載された製品がありましたが、違いは何でしょうか。
小川 マルチファンクションNICとかコンバージドネットワークアダプター(CNA)のことですね。これらの付加機能は、ハードウェア的に実装されていたため、オフロードできる処理は限定的で、後から拡張することはできませんでした。一方、Smart NICは、ソフトウェアをインストールすることで機能の強化や追加ができる点が、従来のものとは大きく異なります。従来型の携帯電話と、自由にアプリをインストールできるスマートフォンの関係と良く似ていますね。
工藤 ソフトウェアで拡張できるのは大きな強みですね。ただ、まだ全てのNICを置き換えるほどには普及していないように感じています。
小川 はい。実際、Smart NIC用のOSやアプリケーションを開発するのは難しく、これまでは通信事業者やパブリッククラウド事業者などでの活用に留まっていました。しかしvSphere Distributed Services Engineが登場したことで、今後はエンタープライズITでも本格的な活用が進んでいくのではないかと思います。
vSphere Distributed Services Engineとは
工藤 従来のVMwareプラットフォームでは、仮想スイッチの処理は、ほとんどがCPU上で行われてきました。vSphere Distributed Services Engineが登場したことで、今後は仮想スイッチの処理のほとんどをCPUからSmart NICにオフロードできるということですね。
小川 はい。vSphere Distributed Services Engineでは、Smart NIC上でVMware NSXが稼働しているような感覚で、DPUを活用することができます。もちろん、Smart NIC上のソフトウェアも、普通のサーバと同様に、新しい機能をインストールしたり、更新パッチを当てて不具合を解消することができます。
工藤 なるほど。サーバ本体のVMware ESXiとシームレスに連携しながら、Smart NIC上でもARM版のVMware ESXiが稼働して、VMware NSXも動かしているわけですね。vSphere Distributed Services Engineを導入することで、サーバCPU負荷の軽減や、DPUで処理することによる通信の遅延の削減など、様々なメリットが生じますね。その一方で、オフロードできるのは特定の処理に限られるのではないかという懸念もあります。
小川 ある意味ではその通りです。しかし、重要なことはSmart NICがソフトウェアベースなので、機能追加や強化が可能である点です。vSphere Distributed Services Engineは昨年10月に最初のリリースが登場したばかりですが、今後さらに開発が進むことで、オフロードできる処理の範囲が広がり、様々な追加機能がリリースされることでしょう。早速、2月末にリリースされたVMware NSXバージョン4.1.0ではファイアウォール機能のオフロードが実装されました。
vSphere Distributed Services Engineの使い勝手と制限
工藤 弊社でもvSphere Distributed Services Engineを検証中ですが、Smart NIC側のVMware ESXiの設定はほとんど必要なく、意識することなく今までのvSphereのように使っていただくことができます。実際にオフロードする際は、VMware NSXの分散スイッチ設定の項目で、ネットワークオフロード先としてSmart NICのベンダーを選んでNSXの設定を進めていくだけで、非常にシンプルな操作で実施することができました。このように、運用管理の手間が増えることなく導入できるのは、とても素晴らしいと思いました。一方で、故障やライフサイクルの終わりにSmart NICを交換する時は、中に入っているVMware ESXiも再インストールする必要がありますよね。これは管理者にとって、かなり負担になるのではないでしょうか。
小川 確かに、Smart NICもある種のコンピュータなので、サーバと同様、交換時にはVMware ESXiの再インストールが必要です。しかし、VMwareは、一般企業でも利用しやすいように、使いやすいインストーラーを提供しています。具体的には、普段お使いのVMware製品と同じISOイメージで、Smart NICにも再インストールすることができます。その際、初期設定などはVMware vCenterに保存されているので、自動的に復元されます。つまり交換したSmart NICに再インストールするだけで、そのまま以前と同じようにvSphere Distributed Services Engineを利用することができます。
工藤 なるほど。交換時の作業も、それほど心配しなくてもいいということですね。インストール時だけでなくvCenterからは1台のESXiとして管理しているのに、ESXiの更新やNSXの導入は従来のESXiにもDPU上のESXiにも意識することなく運用がされることには驚きました。
株式会社ネットワールド 工藤 真臣 氏
HPE製品の強みはSmart NICベンダーとの密接な連携
工藤 既にいくつかのハードウェアベンダーが、vSphere Distributed Services Engineをサポートしていますが、HPE製品の特徴について教えてください。
小川 弊社は、HPE ProLiantサーバにPensandoのSmart NICカードを搭載することで、vSphere Distributed Services Engineに対応しています。Pensandoは、AMD傘下のSmart NICベンダーで、Cisco Systemsの元CEOと開発者が立ち上げた企業です。弊社は、Pensandoの創業期から投資を行うなど、積極的なパートナーシップを結んでいます。
工藤 少し意地悪な質問かもしれませんが、vSphere Distributed Services Engineは、ESXiが動作するDPUさえあれば、どのベンダーのSmart NICでも同じように機能するのではないかとも思いました。HPE製品の強みはどのような点にあるのでしょうか。
小川 HPE製品の強みは2つあります。1つは、Smart NICベンダー各社と浅く広くではなく、この領域においてはPensandoと技術面で密接に協力していることです。これにより、Smart NIC内部の状態を、広く深く監視することができます。その結果、障害予兆や故障検知など、より高度な機能を提供することができるのです。具体的には特別なSmart NIC監視ツールを必要とせず、HPE ProLiantサーバから直接Smart NIC内部を監視して、さまざまな警告情報やステータスをお客様に提供できるようになっています。
もう1つの強みはサポートにあります。障害が発生した場合、ソフトウェア、Smart NIC、サーバのCPUなど様々な原因が考えられ、特定することは困難です。しかし弊社のサポートチームは、Pensandoとの技術協力を通して、Smart NICに精通しています。HPEのサーバテクノロジーとサポートチームが、日常的な状態監視や診断を通して、お客様の5〜6年間に渡るSmart NICライフサイクルをきちんと支援できるのが私たちの強みだと考えています。
工藤 なるほど。Pensandoに絞ったアプライアンスとして開発したからこその強みですね。
日本ヒューレット・パッカード合同会社 小川 大地 氏
Smart NIC普及に向けた展望
工藤 vSphere Distributed Services Engineが登場したことで、今後のSmart NICの普及に期待が掛かりますね。仮想化の恩恵やソフトウェアベースの自由度と、物理ハードウェアの高速・低遅延な性能を両立できる、まさに良いとこ取りのソリューションではないでしょうか。
小川 そうですね。先程、従来型の携帯電話とスマートフォンを引き合いに出したように、Smart NICも、今後さまざまなアプリケーションが登場し、一般企業での活用が進んでいくでしょう。いわばSmart NICの「民主化」を目指して、HPEとしてもvSphere Distributed Services EngineとSmart NICを後押ししていきたいと思います。
工藤 SmartNICの民主化とともに、普及が進むと良いですね。本日はありがとうございました。
vSphere Distributed Services Engine についてさらに詳しく
vSphere Distributed Services Engine については、以下のビデオでも詳しく紹介しています。
ビデオギャラリー
NICの中でESXiが動く?!
vSphere 8 + VMware NSX + DPUを検証してみた
「DPUって効果があるの?」という疑問をお持ちの方に向けてvSphere 8の新機能であるvSphere Distributed Services Engineの検証をされたネットワールド様と日本ヒューレット・パッカード様のエキスパートをゲストにお迎えして実機での検証結果を包み隠さずお伝えします。