複雑化し、高コスト化を招いていたITの運用環境を改善するためは、社内に乱立しているサーバを集約・統合し、インフラ全体の管理を一元化して可視性を高めていくことが必要です。これを実現する主要技術として、仮想化が活用されています。
いま、仮想化が注目されている理由とは?
「クラウドファースト」というキーワードに象徴されるように、ITシステムのコスト削減、ビジネスの迅速化、ユーザーの利便性向上などの様々なメリットから、クラウドを優先的に活用する企業が広がっています。
このクラウドを支えている基盤技術が仮想化です。言い換えれば、仮想化の進化によって、今日のクラウドが実現されました。もっとも、仮想化の概念そのものは決して新しいものではありません。実はそのかなりの部分が、1990年代以前のメインフレーム時代に確立されてきたものです。
当時、非常に高価であったコンピュータ上に、複数の「仮想計算機(VM:Virtual Machine)」と呼ばれる環境を作り出すことで、各業務は、あたかも自分がコンピュータを独占しているかのように使用できるようになりました。また、それぞれのVMは、ハードウェアから論理的に分離・独立しているため、仮にあるVMがエラーなどでダウンした場合でも、他のVMの動作に影響を及ぼすことはほとんどありません。
ではなぜ、コンピュータの高性能・低価格化が進んだと言われる現在に、あらためて仮想化がクローズアップされているのでしょうか。
2000年代以降、メインフレームやUNIXサーバからIAサーバへの移行、Webアークテクチャの普及など、急激な変化が起こってきました。その結果、企業内には多数のサーバやストレージが乱立することになり、下記のような問題を顕在化させています。このように複雑化したIT環境に仮想化を適用することで、シンプルかつ効率的な運用管理を実現することができるのです。
仮想化が注目されている理由
- 1台につき1アプリケーションの運用を基本とするIAサーバが、部門やプロジェクト単位で導入され、増殖し続けている。
- 各サーバの処理能力を最大ピーク時にあわせて設計しているため、リソース利用のむだが常態化している。
- 管理対象サーバの台数があまりにも多すぎて、業務運用に支障を与えない時間内では、必要なメンテナンス作業やバックアップを完了できない。
- 異種、複数バージョンのOSが混在し、管理を煩雑化させている。
そもそも仮想化とは何か?
具体的に仮想化とは、どんな機能を提供する技術なのでしょうか。その“振る舞い”から、仮想化は次の3つのパターンに分けることができます。
- コンピュータ資源を分割する
1つの物理的リソースを複数の論理的リソースに分割します。代表的な技術が「サーバ仮想化」で、1台のサーバ上で複数のVMを稼働させます。 - コンピュータ資源をプール化する
複数の物理的リソースを1つの論理的リソースに合成します。代表的な技術が「ストレージ仮想化」で、複数の物理ディスクをまとめて1つの大きな仮想ディスクとして扱えるようにします。 - 異機種に見せかける
物理的リソースを異なるタイプの論理的リソースにエミュレート(模倣)したり、異機種コンピュータの実行環境を作成したりします。代表的な技術として、Java言語で開発されたプログラムを他機種コンピュータ上で実行する「JavaVM」があります。
サーバ仮想化のメリット
- リソースの有効利用(ハードウェア利用率の向上)
- 処理能力の変化や構成変更などの要求への迅速な対応
- 運用管理コストの削減
- 障害時の影響範囲の局所化(OSなどの障害がサーバ全体に及ばない)
- ソフトウェアの依存関係問題の最小化(同一サーバ上で複数のOSが稼動可能)
- サーバ統合の促進
仮想化が目指すものとは?
クラウドの普及によって、ITシステムは従来のような“所有”から、“利用”に重点を置いた運用形態へと移行しつつあります。また、ITシステムへのアクセス手段も、PCだけでなくスマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスへと多様化しています。
業務アプリケーション単位でITシステムを構築・運用してきた従来の考え方では、このような環境変化に迅速に追随していくことは困難です。既存のITシステムの維持管理にあたっている情報システム部門の負担はすでに限界に達しており、そもそも人海戦術によって企業の戦略的なIT活用を支えていこうとしても無理があります。
そうした中で注目され始めたのが、「SDDC(Software-Defined Datacenter:ソフトウェア定義によるデータセンター)」というキーワードです。データセンターを構成するあらゆるハードウェアやソフトウェアの機能を抽象化し、プログラムによってコントロールするもので、かつてない運用の柔軟性と拡張性、自動化を実現することができます。
簡単に言えば、サーバだけでなくストレージ、ネットワーク、セキュリティ機能まで、あらゆるリソースを統合し、データセンターを丸ごと仮想化してしまおうという発想に基づいたアプローチがSDDCです。SDDCを実現するには、以下の4つのステップを踏む必要があると言われています。
SDDC(Software-Defined Datacenter:ソフトウェア定義によるデータセンター)を実現する4つのステップ
- あらゆるアプリケーションを仮想化する
- アプリケーションの要求に応じてITリソースを仮想化する
- 効率性とスピードを兼ね備えた状態でネットワークを仮想化する
- 仮想化されたITリソースをツールで自動的にマネジメントする
クラウドやSDDCをはじめ、より快適で効率的なIT運用モデルの実現を目指して、仮想化技術は絶え間ない機能拡張や進化を続けています。