パブリッククラウドの利用が当たり前となった現在、これまでオンプレミスで運用してきた仮想基盤をクラウドに移行したいと考える企業が増えています。しかし、移行作業で直面する課題をしっかり理解しておかないと、あとから思わぬ追加作業や手戻りに悩まされることになります。仮想基盤移行の決定版となるVMware NSX Hybrid Connectを用いた課題解決の方法を、伝説のVMware vExpertとして知られるネットワールドの工藤 真臣 氏が解説します。
株式会社ネットワールド
SI技術本部 ソリューションアーキテクト課 課長
工藤 真臣 氏
仮想基盤のLift & Shiftで直面する課題
VMware vSphereベースの仮想基盤を新しい仮想基盤に移行する上では、大きく次の4つの方法があります。
- Re-Host : 既存のVM(仮想マシン)をそのまま移行する。
- Re-Platform : オンプレミスとは異なるプラットフォームにVMを移行する。
- Re-Purchase : アプリケーションをSaaSにリプレースする。
- Re-Architect : コンテナなどクラウドネイティブなアーキテクチャーでシステムを再構築する。
上記の中で最も多くの企業が移行作業で採用しているのが、いわゆる「Lift & Shift」の手法として知られるRe-Hostです。ネットワールド SI技術本部 ソリューションアーキテクト課 課長の工藤真臣氏は、「『今動いているVMの設定を一切変更したくない』というユーザーの思いに応えるもの」と、その本質を語ります。
そしてLift & Shiftによる移行を行うに際して、これまで主に次のような3つの方法が検討されてきました。
第1は、任意のVMをOVF形式のファイルとしてコピーし、新環境の仮想基盤に移行する方法です。現行環境と新環境間でデータを転送するだけで移行が可能であり、双方がvSphereを採用していれば、仮にバージョンが異なっていてもハイパーバイザー層の高い互換性を得られます。ただし、既存のVM内で設定されているIPアドレスやMACアドレスを移行先に継承することはできず、ネットワークの修正作業が必須となります。また、システム停止が長時間に及ぶのも問題です。
第2は、vCenter Converterによる移行です。この方法を用いれば、システム停止時間を若干短縮することができます。しかし、IPアドレスやMACアドレスを継承できないという問題は、やはり解決されません。
第3は、Cross vCenter vMotionによる移行です。2つのvSphere環境をまたいだvMotionを実現した画期的な機能で、システムの停止時間をゼロにできる点が注目されています。しかし、残念ながらこの方法も仮想基盤の移行に適しているとは言えません。移行元と移行先のvSphereがほぼ同じバージョンであることが条件となるためです。加えて移行元と移行先を結ぶネットワークにも、250Mbps以上の帯域が保証された専用線が必要とされます。
要するに上記の3つの方法は、いずれも同一データセンター内での仮想基盤の移行を想定したものであるため、移行先でも同一ネットワーク(VLAN)が使えることが前提となります。これが仮想基盤の異なるデータセンターへの移行におけるハードルとなってしまいます。
「クラウドを含めた異なるデータセンターへ仮想基盤の移行を想定するならば、『どうやって既存のネットワークを移行先に延伸するか』『どうやってデータセンター間の回線コストを抑えるか』『どうやってvSphereのバージョンの自由度(互換性)を高めるか』といった課題を解決しなければなりません」(工藤氏)